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かに星雲crab nebula

かに星雲について

かに星雲の可視光画像

パロマー天文台提供
かに星雲(M1/NGC1952)は牡牛座の方向におよそ6000光年離れたところにある超新星残骸です。1731年に初めて観測されました。 かに星雲は超新星残骸なので過去に爆発自体があったはずで、実際に1054年頃に爆発があったとされる記録が日本や中国に残っています。 そのためかに星雲は爆発してからの年齢がわかっている数少ない超新星残骸の1つです。

ここではかに星雲の持つ特徴を3つ紹介します。
・超新星残骸
・パルサー(中性子星)
・シンクロトロン放射
超新星残骸については『超新星残骸』をご覧ください。パルサーとは周期的に電波をだす天体のことで、 かに星雲にあるパルサーは強い磁場を持って高速で回転している中性子星だと考えられています。 最後のシンクロトロン放射というのは、相対論的電子が強い磁場によって進路を曲げられたときにでる 放射光のことで、かに星雲はシンクロトロン放射によって輝いていると考えられています。

X線でみたかに星雲

かに星雲のX線画像

NASA/CXO提供
  可視光の画像とX線の画像を比べて見てください。かに星雲の姿がまったく異なって見えます。 X線画像で、リングの中心付近に白く輝く天体が、パルサーだと考えられている天体です。 白い光源からリングのようなものに垂直な方向にのびているのはポーラージェットと呼ばれ、 パルサーの極方向に噴出する、X線を放出する物質と反物質のジェットだと考えられています。 また、パルサーはかに星雲の赤道面に沿って荷電粒子を加速度運動をさせています。 それがリング上に見える白いモヤモヤとしたもので、パルサーウリンドと呼ばれています。

 どちらも非常に強い磁場によって生み出されている現象であり、この磁場によって電子が束縛されシンクロトロン放射をおこしていると考えられています。

 さらに、かに星雲を数ヶ月おきに連続してX線観測することでこれらの構造が時間的に変化していることがわかってきました。チャンドラ衛星により観測されたX線ムービーをご覧ください。このムービーはパルサーの活動をしっかりと捉えています。 パルサーのすぐそばにある小さなリングに着目してみてください。このリングの直径はだいたい1光年です。 小さなリング右上から1すじの光線が外側のより大きなリングへ流れていっているのがわかります。 この流れの速度はだいたい光速の半分程度だと考えられています。
この現象は、パルサーからやってくる非常に速いスピードの物質と反物質でできたパルサーウインドが原因と考えられています。 またパルサーウインドは衝撃波として星雲の形状に影響をあたえることもあります。

かに星雲のX線ムービー

チャンドラ衛星によるかに星雲のX線ムービー。2010年から2011年の7ヶ月間の観測をつなげた。提供はNASA/CXC/MSFC/M.Weisskopf et al & A.Hobart。

かに星雲のX線観測を通した土星の衛星タイタンの大気の厚さの測定

我々はチャンドラ衛星によるかに星雲の連続観測チームとして解析を担当した他、チャンドラ衛星を利用して、土星の衛星タイタンの大気の厚みを測定するというユニークな試みに成功しています。

タイタンの通り道と影

NASAのサイトより
土星の衛星タイタンは大気をもっていることが知られている衛星です。X線を用いてその厚みを測定したのは 私たちの研究室が世界ではじめてでした。 タイタンがかに星雲を横切る時、かに星雲からやってくるX線がタイタンの大気に吸収されるので、 地球のX線CCDでかに星雲に映るタイタンの影を見た場合、大気の厚さの分だけ半径が大きくなって見えます。 よって大気の厚さを見積もることができます。

2003年に行われた測定の結果、タイタンの大気の厚みは約880kmという結果が得られました。 より詳しくこのことについて知りたいと思われたかたは、「Mori, K et al. 2004, ApJ, 607, 1065-1069」をご覧ください。
タイタンのかに星雲通過の動画もご覧ください。どちらの動画もかに星雲通過のイメージとなっています。
可視光(常深博提供)
X線他(NASA提供)

この研究成果は論文として全世界に発表されただけではなく、NASAのニュース記事としても全世界に配信され、 日本でもAstroArtsなどで取り上げられました。
Titan casts revealing shadow(NASA)
チャンドラX線衛星が捉えた、かに星雲のX線を利用したタイタンの影(AstroArts)
以下にNASAが配信したニュースの和訳を載せておきます。ただしこのニュース記事は2004年4月5日に配信されたもので、 役職などは当時のままになっていることに注意してください。
  NASAのX線観測衛星チャンドラは、土星の衛星タイタンがX線で大変明るいかに星雲の前を横切ると言う珍しい天文現象を捉えました。 タイタンは土 星最大の衛星で、太陽系の衛星の中では、唯一厚い大気を持つことが知られています。 タイタンがかに星雲の前を通ったときのX線の影を調べ、タイタンの大気 の厚さを初めてX線で測定しました。
 タイタンは2003年1月5日にかに星雲の真ん中を横切 りました。 かに星雲は1054年に爆発した超新星で、その残骸がX線で満月の1/10ほどの大きさで明るく見えています。 土星やタイタンは30年ごとにか に星雲に近づきますが、その前を通ることはめったに起こりません。
 この結果はアストロフィジカルジャーナルに発表されますが、その論文の第一著者はペンシルベニア州立大学 の森浩二博士(阪大出身)で、次のように 言っています。 「土星やタイタンが通過した今回の現象は、かに星雲が出来てから初めてのことでしょう。 次に似たようなことが起こるのは2267年ですか ら、本当に一生に一度あるかないかですね」。
 チャンドラで測定したタイタンのX線の影の大きさはタイタンの固体部分よりも大きくなっています。 その差は、X線を吸収するタイタンの大気の厚さ で、880km(550マイル)ほどになります。タイタンの大気の厚さは 1980年にボエジャー1号探査機が電波、赤外、紫外領域で測定していますが、今回測定した大気の広がりは ボエジャーの測定値よりも僅かに厚く(10〜15%)なっているようです。
 同論文の共著者で大阪大学の常深博教授は、「2003年には土星は1980年の時よりも5%ほど太陽に近くなっています。 このせいで大気が少し膨らんでいるのかも知れませんね」と述べています。
かに星雲はX線でかなり大きくて大変明るいために、タイタンがその前を通る時 にタイタンの作るちっぽけな影を調 べることが出来ました。タイタンの動きに合わせて正確にチャンドラを制御し、データを解析した結果、 大きさがたった一秒 角ほどのタイタンの影を測定しました。一秒角とは、10円玉を4kmも先から見たときの大きさです。 チャンドラ衛星のほとんどの画像は、種々の天体からのX線放射を研究するものですが、 タイタンの観測は、その吸収を測っているわけで、医療診断に使 うレントゲン診断と似ています。 つまり、X線発生装置はかに星雲で、タイタンが被写体、チャンドラの検出器がX線フィルムと言うわけです。
 タイタンの大気は、窒素が95%、メタンが5%で、その表面での大気圧は1.5気圧にもなります。ボエジャー一号探査機は、 500km(300マイル) 以下の領域と1000km(600マイル)以上の領域について測定しました。しかし、チャンドラ以前には500〜1000kmでの測定はありませんでし た。 タイタンの大気がどのくらいまで広がっているかと言うことは、カッシニ−ホイヘンス探査体の計画に影響を与えかねません。 カッシニ−ホイヘンス探査 体は今年の7月に土星の周回軌道に入り、4年にわたり、土星やその輪、多数の衛星を観測します。 その計画にはタイタンに何度も950km(約600マイ ル)に も大接近させるほか、タイタンの表面に突入体ホイヘンスを着陸 させることになっています。「カッシニはタイタンに大接近することになっていますが、タイタ ンの大気が少し膨らんでいるとすると、 その計画も修正が必要でしょうね」と常深教授は述べています。
この結果は2004年6月のアストロフィジカルジャーナル誌に掲載されます。 この 研究チームの他のメンバーは、片山晴善(阪大出身、現宇宙開発研究機構)、 デイブ・バーロー博士、ゴードン・ガーマイヤー教授(ペンシルバニア州立大学) それにアルベルト・メッツァー教授(ジェット推進研究所)です。チャンドラは 搭載しているX線CCDを使ってタイタンを世界時で2003年1月5日9時4分から18時46分まで観測しました。
 アラバマ州ハンツビルのマーシャル宇宙飛行センターはワシントンにあるNASAの宇宙科学オフィスのもとに チャンドラの観測をしています。カリフォ ルニア州のレドンドにあるノースロップグラマン社 (元のTRW社)はチャンドラの主契約社、マサチューセッツ州のケンブリッジにあるスミソニアン天文台が 科学観測計画や運用計画を立てています。
 更に詳しい情報や映像は以下のウェブを参照してください。
http://chandra.harvard.edu
http://chandra.nasa.gov

気球搭載PHENEX検出器によりかに星雲の硬X線偏光観測

PHENEX気球実験2009

打ち上げ前の気球ゴンドラ
この研究は、かに星雲からやってくる硬X線の偏光を観測するための気球のセットアップと、実際に気球実験で偏光の観測を試みているものです。  かに星雲から出る軟X線については1970年代に偏光が観測され、シンクロトロン放射によってかに星雲が輝いているという説を 裏付けることになりましたが、硬X線においてはいまだに偏光が確認されていません。 そのため、もしPHENEX気球実験において硬X線についても偏光が観測された場合、世界初ということになります。 この研究について詳しく知りたいと思われたかたは、検出器開発のPHENEXも参考にしてください。

このPHENEX気球実験は2006年に一度行われました。この気球実験の詳細は森本修士論文をご覧ください。 2006年の気球実験では統計誤差が大きくなってしまい、硬X線の偏光が有意に観測されませんでした。 そのため2009年6月、再び気球を打ち上げかに星雲の硬X線の偏光を観測する実験がおこなわれています。 なぜ硬X線の偏光を観測することが重要なのかといいますと、偏光の観測からかに星雲の磁場がどのようになっているのか推測することが できますし、かに星雲はシンクロトロン放射で輝いているという説を裏付ける証拠となるからです。

大阪大学X線天文グループ

〒560-0054
大阪府豊中市待兼山1-1

理学研究科F棟5階